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おおさかのゆううつ

大阪の憂鬱

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《大阪の憂鬱(おおさかのゆううつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,647 字 · 14 頁

青空文庫

二

一個百二十円の栗饅頭を売っている大阪の闇市場だ。十二円にしてはやすすぎると思って、買おうとしたら、一個百二十円だときかされて、胆をつぶしたという人がいるが、それくらいのことに驚いて胆をつぶすような神経では、大阪の闇市場に一歩はいればエトランジェである。一樽一万円の酒樽も売っているのだ。

「人を驚かせるが、自分は驚かないのが、ダンデイの第一条件だ」

という意味のことをボードレエルが言っているが、私たちはこの意味でのダンデイになることが、さしあたって狂人にならないための第一条件ではあるまいか。

それほど見るもの聴くものが、驚嘆すべきことばかりなのだ。しかも、驚嘆すべきことが、応接にいとまのないくらい、目まぐるしく表情を変えて、あわただしいテンポで私たちを襲っている昨日今日、いちいち莫迦正直に驚いていた日には、明日の神経がはや覚束ないのである。俗な言い方をすれば、驚いているひまもない。

二

「何でも売っている」

大阪の五つの代表的な闇市場――梅田、天六、鶴橋、難波、上六、の闇市場を歩いている人人の口から洩れる言葉は、異口同音にこの一言である。

思えば、きょうこの頃の日本人は、猫も杓子もおきまりの紋切型文句を言い、しかも、その紋切型しか言わなくなってしまったが、私は猫にも杓子にもなりたくないから、かえすがえすも紋切