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てんしゅかくのおと

天主閣の音

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《天主閣の音(てんしゅかくのおと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 38,941 字 · 79 頁

青空文庫

「どうも商人とは思われないね」

「と云って職人では勿論無し」

「そうして、二人は、友達だと云うが、そんなようにも見えないね」

「あれは主従に相違ありません」

「主人と思われる一人の方は、お大名様のように何となく威厳があるね」

「いや全く恐ろしいような威厳で」

「二人とも立派なお武士さんらしい」

「ひょっとかすると水戸様の、ご微行かなんかじゃあ有りますまいかな。それ一人は光圀様で、もう一人が朝比奈弥太郎」

「莫迦をお云いな、何を云うのだ。水戸黄門光圀様なら、とうの昔にお逝去れだ」

「あっ、成程、時代が違う」

「それは然うと今日はやって来ないね、いつも遣って来る変な老人は」

「そうです今日は来ないようです」

「あれも気味の悪い老人だね」

「年から云えば八十にもなろうか、それでいて酷くピンシャンしています」

「あの人の方が光圀様のようだ」

これが帳場での噂であった。

或日元気の可い三十がらみの、商人風の男が、ひょこりと店先へ立った。

「鳥渡お訊ね致します」

「へえへえ何んでございますかね」

「お家に江戸のお客様が、お二人泊って居られましょうね?」

「へえ、お泊りでございます」

「私は江戸の小間物屋で、喜助と申す者でございますが、鳥渡お二人様にお目にかかりたいんだ」