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てんしゅかくのおと

天主閣の音

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《天主閣の音(てんしゅかくのおと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 38,941 字 · 79 頁

青空文庫

「鳥渡お訊ね致しますがね」香具師は探ぐるように云い出した「ほんとに貴女様は眠剤を、毒だと思っていらしったので」

「あたりまえだよ。何を云うのさ」

「では何うして貴女様自身、毒をお飲みでございましたな?」

「ああ夫れはね」とお半の方は、物でも咽喉へつかえたように「一緒に死のうと思ったのさ」

「へえ、一緒に? 何人様と?」

「馬鹿だねえ、お前さんは!」叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)するように嘲笑った。「誰と一緒に毒を喫んだか、お前さんには解らないのかい?」

「解って居りますよ。御殿様と……」

「それじゃあ夫れで可いじゃあないか」

「ふうん」と香具師は腕を組んだ。

お半の方は咽ぶように云った。

「恨みは恨み、恋は恋、妾に執ってはお殿様は、離れられないお方なのさ」

お半の方は項垂れた。

「……いよいよ毒薬で無いとすれば、別の手段を考えなければならない」これは心中で呟いたのであった。

そこへ宗春が帰って来た。何となく勝れない顔色であった。ムズと坐って考え込んだ。

「殿様、何か心配のことでも?」こう軟かく香具師は訊いた。

「うん」宗春は顎を杓った。「江戸の吉宗奴が俺を疑い、町奉行の大岡越前奴を、隠密として入り込ませたそうだ」