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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁
「おお臭い」勝子は自分の鼻の前で手を振った、「また鬼ころしを飲んだね、臭くって鼻が曲りそうだよ」
なにが鬼ころしだ、鬼ころしを飲んだからどうだってんだ、そんなふうに増田がくだを巻き、勝子はなだめて部屋へあげようとし、増田は土間へ坐りこんだ。
そこへ河口初太郎が帰って来たのである。から弁当の包を振りながらふらっと来て、格子口から中を覗きこみ、その眼を細くしたり大きくみひらいたりし、頭を強く左右に振ったのち、改めてじっと眸子を据え、なにかふしぎな物躰でも発見したかのように、勝子と増田をつくづくと見まもった。
「あらお帰んなさい」と勝子が云った、「このしとまた鬼ころしをやったらしいの、見てちょうだいこのざま、――今日はいっしょじゃあなかったの」
「あにいだな」河口は顔をさし出して、土間に坐りこんでいる増田を覗いた、「こりゃあおめえあにいじゃねえか」
「うちのしとよ、いっしょじゃなかったの」
「おれの現場で酒が出てよ、それがおめえウィスキーだ」河口は手の平で額を押えた、「本場物のウィスキーで一本幾らとかってえ代物だってんだ、――あにいに飲ませたかったが、うん、今日はいっしょじゃなかった」