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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁

青空文庫

いつもなら主人であるコックが、子供のため他のソース鍋に残り物をとっておくのだが、いまはそれらしい物は見あたらなかった。

「なにうろうろしてんのさ」とさきの女給が云う、「そんなとこで立ってたってなんにも出やあしないよ、帰んな」

子供は振向いてそこを去る。

彼はまったく無表情で、いまの女給の不当な侮辱をどう感じているか、うかがうことはできない。そういう侮辱に慣れているともみえるし、反対に、それを感じないことで、相手に侮辱を返上している、というふうにも思われた。

ほぼ七歳とみえる子供ながら、彼のようすはおちついているし、その表情や口のききかたには、どことなく達観したような、または多難な生活をしてきて疲れたおとなのような、枯れた柔和さが感じられる。

彼が「のんべ横丁」の歴訪を終るまでに、まずくすると他の強敵に出会うことがあった。

敵の一はまるという名の犬。他の一は三人組の少年たちだ。犬のほうはまるなどというやさしそうな名にもかかわらず、四十キロもありそうな巨躯と、ゴリラも恥ずかしがるだろうようなものすごいつら構えをしていて、その子供をみつけると、歯を剥き出して唸りながら、のそりのそりと近よって来るのである。