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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁

青空文庫

――近所の子供たちは、たぶん親になにか云われたのであろう、かつ子が通ると脇へよけるだけで、もうがんもどきとからかうようなことはしなくなった。

誰が彼女に乱暴したのか、彼女がなぜ岡部少年を刺したのか、彼女自身がなにも云わないので、おたねにさえわからなかった。係りの刑事にはかつ子がなにか話したようすであったが、職務規則でもあるのか、警察方面から話のもれることもなく、傷害事件の内容は闇の中で始末された物のように、誰にも知られずに終るようであった。

京太がいなくなったから、しぜん酒屋にも用なしで、味噌や醤油は十日に一度、ほかで安売りをする店があるため、伊勢正とは縁が切れたようになった。

岡部少年は予後もよく、退院したという噂も聞えたが、おたねはもちろんなにも云わないし、かつ子も自分には関係のないことのように、伊勢正へ近よろうともしなかった。

そして或る日、使いに出て帰る途中、かつ子は岡部少年に呼びとめられた。少年はデニムのズボンにジャンパーを着、酒の名を染めた前掛をしめ、ゴムの半長靴をはいていた。

「どうしたの、かっちゃん」と少年は停めた自転車を、片足だけ地面におろして支えながら、明るい調子で呼びかけた、「ちっとも店へ来ないね、あ、そうか、おじさんがいないんだね」