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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁
先生は戸口で云った、「お招きにあずかって参上した、かんどうせいきょうという浪人者です、よろしく」
ごめん、という古風な云いかたと、先生の大時代な恰好と、そして例のぎょろっとした眼を見て、島さんはなにも感じなかったのだろうか、まるで十年の知己に会ったかのように、白い歯をみせてあいそよく笑い、さあどうぞと手を振った。先生はすぐにはあがろうとせず、モーニングの胸ポケットから、一枚の大きな名刺を出して島さんに渡した。――一般のものより三倍くらい大きな名刺で、それには「憂国塾塾頭 寒藤清郷」と大きな活字で印刷してあった。それは使い古したものとみえ、手垢でよごれ、四隅がめくれていた。
かんどうせいきょうと読みながら気がつくと、寒藤先生が片手を出していた。
「やあどうも」と島さんは云った、「僕の名刺はいま刷らせているところです、古いやつは捨てちまったものですから、失礼します」
そりゃあ構わんよ、と云ったけれど、寒藤先生は手を引込めようとはしなかった。島さんはすぐにそれと気づき、持っていた先生の名刺を先生に返した。そこで寒藤先生はもとのポケットへ慎重にそれをしまい、ちびた下駄をぬいであがった。