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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁
「やい、光子、出ていけ」彼はじだんだを踏み、どぶ板がはねあがった、「光子のやろう、ぼくはもう別れるぞ、――やい、出ていけーっ」
ろじを挾んだ左右の長屋から、なにごとかと思って、住人たちがとびだして来た。福田くんは寝衣ゆかたに細紐をしめただけで、前がはだかり、貧弱な胸と、生気のない足があらわに見えた。
「顎のところに歯形があったよ」あとでかみさんたちがそう話しあった、「あれはおかみさんに噛みつかれたんだよ、きっと」
「よけいなお世話かもしれないけど、あたしゃあんな夫婦喧嘩を見たのは生れて初めてだよ」とべつのかみさんはいった、「夫婦喧嘩で出ていけはいいけどさ、亭主がうちの外へ逃げだして、うちの中にいるかみさんに向って外から、出ていけーってどなるなんて、いったいあれはどういう勘定になってるのかね」
「わる気はないのさ」年増のかみさんの一人が面白そうにいった、「たまにはあのくらいの人がいてくれなくっちゃあね、長屋の空気が浮き立たなくっていけないよ」
こういうわけで、福田くん夫妻は一遍に、この長屋のにんきをさらったのであった。――毎朝、相沢七三雄が階下から呼び起こし、朝めしが済むと、二人はつれだって仕事にでかけ、夕方もいっしょに帰って来た。