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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁
外をあるくときでさえ、自分自身の躯のうしろから、そっとついてあるくように感じられた。
「まるで指名手配でも出されている人間みたいだな」と退職刑事の和泉正六が云った、「きっと叩けば泥の出るやつだぞ」
それを聞いたヤソの斎田先生が、あとで笑った。
「叩いて出るのは埃だ」と斎田先生は云った、「泥は吐かせると云うものだ、退職刑事もどうやら怪しいな」
半助は近所づきあいをしない。たまに訪ねて来るのは、べつの町内にいる六ちゃんという少年と、この街で「小屋の平さん」と呼ばれる男の二人だけであった。
平さんは半助と同年配で、十日に一度ぐらい訪ねて来るのだが、かくべつ用があるわけではないらしい。小半日ちかくいるときでも、話し声は殆んど聞えないし、たまに聞えるのは茶を啜る音か、天気のこと、景気のよしあしなどで、なんのために訪問し、なんのためにそうしているのか、とんと理解がつかないのであった。
半助はこの街の誰よりも早く起きて、井戸端で洗面をしたあと、東の空に向ってかしわ手を打ち、敬虔に眼をつむって頭を三度さげながら、口の中でなにか呟く。願いごとをするのだろうが、なにを祈願するのか、ぶつぶつ呟くだけで内容は聞きとれない。