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あひるとさる
寺田寅彦随筆集 第五巻
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第五巻(あひるとさる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 194,515 字 · 389 頁
そんなことを無意識に考えたためでもあろうか、この水準点ベンチマークの鋲の丸いあたまに不思議な愛着のようなものを感じてちょっとさわってみないではいられなかったのである。
水準点のすぐそばに木の角柱が一本立っている。もうだいぶ長く雨風にさらされて白くされ古びとげとげしく木理を現わしているのであるが、その柱の一面に年月日と名字とが刻してある。これは数年前京都大学の地球物理学者たちがここにエアトヴァスの重力偏差計をすえ付けて観測した地点を示す標柱だそうである。年々に何百人という登山者のうちで、こんな柱の立っているのに気のつく人はいくらもないかもしれない。まして、その柱の意味を知る人はおそらく一人もないかもしれない。
小浅間への登りは思いのほか楽ではあったが、それでも中腹までひといきに登ったら呼吸が苦しくなり、妙に下腹が引きつって、おまけに前頭部が時々ずきずき痛むような気がしたので、しばらく道ばたに腰をおろして休息した。そうしてかくしのキャラメルを取り出して三つ四つ一度に頬張りながら南方のすそ野から遠い前面の山々へかけての眺望をむさぼることにした。自分の郷里の土佐なども山国であるからこうしたながめも珍しくないようではあるが、しかし自分の知る郷里の山々は山の形がわりに単調でありその排列のしかたにも変化が乏しいように