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ならしげざっぴつ

小出楢重随筆集

小出 楢重

線上閱讀小出 楢重《小出楢重随筆集(ならしげざっぴつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 334,351 字 · 657 頁

青空文庫

私は蝿たたきを握っておそるおそる蜘蛛に近づくのであるが、その八本の足を雄大に拡げて、どす黒くまるい腹を運ばせて、ヘッドライトの眼光をピカピカさせている雄姿を見ると何んとしても私の手もとは狂わざるを得ない、私はすぐ尻をくるりと、高くまくしあげるのだ、これは万一、足もとへ飛んで来た時、逃げ出すのに都合よいためである。私はいつも大江山の頼光を想い浮べて、悲壮な感にさえ打たれる。

無我夢中になぐりつけ、蝿たたきは、そこへ投げ捨てたまま跣足でかどへ飛出すのである。それが死んだか逃げたかを、見きわめるのは妻君および女中の役目だ、が幸にして不気味な、グロテスクな残骸が落ちていたとすれば、まず安心で、女中が新聞紙に包んで遠い場所へ捨てにゆくのだ。この道筋が一歩間違って箪笥の後へでも逃げ込もうものなら、私はもうその部屋では眠ることは出来ないという厄介なことになってしまうのだ。それで私は或る時近所の小僧と特約して一匹十銭で殺してもらうことにした、鼠よりよほど値がよいので喜んでとりに来てくれたが、あまり蜘蛛が出ない日が続くと、小僧は儲けがないのでよそから大きな奴の密輸入を企てようとしたので、これは危険だからやめにした。