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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
線上閱讀尾崎 士郎《尾崎士郎短篇集(あきかぜとはは)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 頁
蜜柑の皮
わざわざおいで下さいましてお目にかかるのは始めてのように思いましたが、こうやってはなしをしているうちにだんだんおもいだしてまいりました。ふしぎなものですね。今夜はすっかりわすれていたあのときのありさまがわくようにおもいだされます。ぼうっとあのときの人びとの顔までも見えるようで――何と申しますか、わたくしも四年前に家内に先立たれ、こういうさびしいひとりぐらしをしておりますと雨のしみとおる壁までもすぎ去った日のかげのように、もうしっかり自分と結びついてしまうものでございます。それにつけても、あのときのことだけはどなたさまにもはなすまいとこころにちかい、あのようなおそろしいものを見たおのれの業苦のほろびてゆくのをいまだに祈りつづけている今日このごろでございますが、わたくしも教誨師をやめてからいつのまにか二十余年もすぎていることを考えますと今までまもりとおした秘密をおはなし申上げたところで格別身に禍のふりかかるおかたもあるまいとぞんじ何もかも申上げます。さてながいあいだ心の底にかくしてしまったはなしであります故、どこからさきにはなしてよいやら、いざとなると何もかも嘘のような感じもいたし、こんな生活が若いころの自分にあったのかということさえも疑わしくなるほどでございます。