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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
線上閱讀木暮 理太郎《山の憶い出 上(ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ))》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 頁
黒部川対岸の崇嶺大岳は私の立っている山稜の峰頭に遮ぎられて、纔に額を覗かせているに止まるが、儼乎たる特有の山貌は紛る可くもない。二羽の大鷲が劒岳の蒼空に悠々と輪を画いて舞っている。
いつの間にか長次郎が登って来て、私の立っている方へと足を向けたので、真直ぐに登る方が近いと教えても「マア景色を眺めにぁ」と言いながら、重い荷を背負って偃松を分け始めた。私はこの忠実な山人の心も知らないもののように思われて気恥しくなった。併し嬉しかった。山に憧れていたのは私達ばかりでは無かったのだ。続く人達も皆この山稜の一角に立って、始めて接した山々の姿に心のゆくまで眺め入った。黄揚羽が忙しそうに其処らを飛び廻って往ったり来たりしている。
人の蹈んだものらしい足跡を辿って十五、六間登ると、岩が現われ偃松が矮くなって直ぐ絶頂に出た。三本の糸を指先で抓み上げたように尖った山だ。偃松が無ければ荷物を置くことさえ覚束ない。一本の糸は今登って来た山稜で、他の二本は南の猫又山と北の毛勝山に続く山稜に当っている。何と云う山か案内者を連れない私達には分らないが、釜谷山と呼ぶことにした。