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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
線上閱讀平林 初之輔《平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕(あるたんぼうきしゃのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 113,247 字 · 229 頁
法学士の安田は、はじめからしまいまで一語も言わずに、下田の子供らのうしろにたって、じっと不思議な死体を視つめていた。
一般に、こうゆう場合に、群集の間にかもされる同情、愁嘆の雰囲気は、この時にはまるで無かったと言ってよい。それどころか、群集――特に近所の人たち――の世論は、どうやら、「因果応報」だと言った林の言葉を裏づけてゆくらしい傾向があった。「悪いことはできませんな」とか、「うらんでいる人は随分ありましょうからね」とか、柴田の横死を悼むよりも、むしろ痛快がっているらしい私語が、はじめはひそひそとであったが、しまいにはほとんど公然と、未亡人の眼の前で、囁きはじめられた。
それだけならよいが、とつぜん妙なことが起こってきた。今までだまっていた安田が、急に「諸君」と叫んだ。一同はだんだんお祭り騒ぎのような気分になって、青年の方を見た。
「柴田は生きている方が我々人類のためになったでしょうか、それとも死んだ方が……」
その時にちょうど、警官の一行が到着したので、群集は「しっ」と叫びながら、新来者の方へ注意を向けた。安田の演説は自然に消滅した形だった。
三