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あるたんぼうきしゃのはなし

平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕

平林 初之輔

線上閱讀平林 初之輔《平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕(あるたんぼうきしゃのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 113,247 字 · 229 頁

青空文庫

五

未亡人と林とは嫌疑者として厳重な取り調べを受けたけれども、前記以外にも大した手懸かりは得られなかった。未亡人の手紙はだいぶ嫌疑を深くする材料にはなったし、彼女は、一時殺意を抱いたことは承認したけれども、犯行はきっぱり否認した。林も「あんな奴は自分で手を下しても殺してやりたいくらいに思った」ことは認めたけれども、凶行については何も知らぬと言い張った。下田夫婦や、林の細君や、安田も参考人としてたびたび取り調べを受けたけれども、ついに何らの手懸かりも得られなかった。

かくして、この事件は全く迷宮にはいってしまい、警視庁でも、所轄署でも、匙を投げた形になってしまった。

五

ところが、それから一ヶ月もたった二月の上旬に、この事件の関係者の一人である安田が、越前の郷里へ帰る途中、列車が大雪崩のために転覆して、不慮の死を遂げてしまった。この出来事が、ふと、私の頭に一つの想像を抱かせることになった。それは単なる想像ではあるけれども、この事件に対して多少の光明を投げるものであると信ずるので、私は、この想像をもとにして一編の論文を草して警視総監に送っておいた。しかし、警視庁で、私の意見を採用したのかどうかさっぱりわからないし、ことによると、ああいう種類の投書は、毎日警視総監宛に何十通となく来るので、私の投書も、ろくろく眼も通さ