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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
線上閱讀平林 初之輔《平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕(あるたんぼうきしゃのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 113,247 字 · 229 頁
「いいえ、実は本部の山岡先生からの使いで、内々でこちらのご主人にお目にかかる用件ができたものですから」
私が、××会の山岡総務の名前を口に出すと、壮士連は急に態度をかえて、ちょっと二階へ上がったが、すぐおりてきてどうぞお二階へと案内した。
私は二階へ上がって行った。
玉村という男は事務机に向かって何か忙しそうに書き物をしていたが、私が上がってゆくと、急に、私の方へ向き直って、さあどうぞと鷹揚に椅子をすすめた。
「ちょっと密談があるので五分間ばかりお人ばらいが願いたいのですが」と私は取り次ぎの男に気兼ねする様な風をして言った。
「よろしい、君、下へおりていたまえ」
親分の命令で、若い壮士はとんとん下へおりて行った。
私はわざと一分間ばかりだまっていてから、突然、非常にはっきりとした声で言った。
「僕は船井三郎という者です」
私はたった一言言って、じっと眼をすえて相手の表情を見ていた。
人間の表情というものが、こうも急激にがらりと一変するものかと私はその時に思った。壮士の親分らしく、悠然と虚勢を張っていた玉村は、急に真っ青になって、唇のあたりを痙攣的に細かくふるわしながら、まるで、電気をかけられたようにすっくと起ち上がった。