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まぼろしのその
幻の園
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《幻の園(まぼろしのその)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,788 字 · 14 頁
なぜだか自分にも分りませんが、昨日聞いたもののように鮮かな感銘が残っています。
恐らくは、そのお話としっくり感じの合うような私たちの屋敷だったからでもありましょう。
三千坪ほどの土地でした。北の隅に、根本が十抱えほどもある大きな楠が聳えていまして、その傍に榎や椋や椿の古木が並んで、それらのからみ合った根が小高い塚を拵えていて、石の稲荷堂が祭ってありました。楠の枝葉の茂みの下に家がありました。深い井戸には、楠の白根が出ていました。
家の前に、塀をめぐらした内庭、それから外庭。外庭の先は下り坂で、遠くの山まで見渡せました。坂の両側の傾斜面は、深い竹林で、その中に、清冽な清水のわき出る大きな池があって、黒や赤の鯉が泳いでいました。竹林の片隅に、先祖代々の墓地がありました。墓地のまわりには大きな杉が立並んでいました。そのほかいろんな大木が四方にありました。
こうした古い家敷には、何かしら、一面に菌でも生えそうな感じがありました。どこかの隅には、お化が出る気味悪い場所もありそうでした。
けれども、その中に点綴するいろいろな楽しみもありました。
梅の花が咲き、桜の花が咲き、椿の花が咲きました。