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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《怪しの館 短編(あやしのやかた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 頁
「それでは文晁先生が俺を推薦くだされたので?」
「はいさようにござります」
「むう」
とにわかに北斎は腕を組んで唸り出した。
当時における谷文晁は、田安中納言家のお抱え絵師で、その生活は小大名を凌ぎ、まことに素晴らしいものであった。その屋敷を写山楼と名付け、そこへ集まる人達はいわゆる一流の縉紳ばかりで、浮世絵師などはお百度を踏んでも対面することは困難しかった。――その文晁が意外も意外自分を褒めたというのだからいかに固陋の北斎といえども感激せざるを得なかった。
「よろしゅうござる」
と北斎は、喜色を現わして云ったものである。
「思うさま腕を揮いましょう。承知しました、きっと描きましょう」
「これはこれは早速のご承引、主人どれほどにか喜びましょう」
こういって使者は辞し去った。
北斎はその日から客を辞し家に籠もって外出せず、画材の工夫に神を凝らした。――あまりに固くなり過ぎたからか、いつもは湧き出る空想が今度に限って湧いて来ない。
思いあぐんである日のこと、日頃信心する柳島の妙見堂へ参詣した。その帰路のことであったがにわかに夕立ちに襲われた。雷嫌いの北斎は青くなって狼狽し、田圃道を一散に飛んだ。