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あくいんねんのうらみ

悪因縁の怨

江見 水蔭

線上閱讀江見 水蔭《悪因縁の怨(あくいんねんのうらみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,705 字 · 28 頁

青空文庫

蘆の根の小蟹は驚いて、穴に避げ入るのも面白かった。

その船を岸から離れぬ様に櫂で突張っている女船頭は、客人が武家なので、編笠を冠っていては失礼と、この時すでに取っていたので、能くその顔は武家の眼に入った。

成程、弁天様より美しい。色は浜風に少しは焼けているが、それでも生地は白いと見えて、浴衣の合せ目からチラと見える胸元は、磨ける白玉の艶あるに似たり。それに髪の濃いのが、一入女振を上げて見せて、無雑作の櫛巻が、勿体無いのであった。

若殿は恍惚として、見惚れて、蓙の上に敷いてある座蒲団に、坐る事さえ忘れていた。

そこへ、梨の実を手拭に包んで片手に持ち、残る片手に空の瓢箪を持って、宗匠も乗込んで来た。

「惜しい事をしましたね。こうと寸法が初めから極っていたら、酒肴は船の中で開くんでしたね。美しい姐さんに船を漕いで貰う、お酌もして貰う、両天秤を掛けるところを、肴は骨までしゃぶッて、瓢箪は一滴を留めずは情け無い。と云って、羽田の悪酒を詰めるでもありませんから、船中では有の実でも噛りましょう。食いさしを川の中へ捨てると、蝕歯の痛みが留る呪法でね」

一番酔っているだけに、一番又能く喋っていた。