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あくいんねんのうらみ
悪因縁の怨
江見 水蔭
線上閱讀江見 水蔭《悪因縁の怨(あくいんねんのうらみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,705 字 · 28 頁
一
天保銭の出来た時代と今と比べると、なんでも大変に相違しているが、地理でも非常に変化している。現代で羽田というと直ぐと稲荷を説き、蒲田から電車で六七分の間に行かれるけれど、天保時代にはとてもそう行かなかった。
第一、羽田稲荷なんて社は無かった。鈴木新田という土地が開けていなくって、潮の満干のある蘆の洲に過ぎなかった。
「ええ、羽田へ行って来ました」
「ああ、弁天様へ御参詣で」
羽田の弁天と云ったら当時名高いもので、江戸からテクテク歩き、一日掛りでお参りをしたもの。中には二日掛ったのもある。それは品川の飯盛女に引掛ったので。
そもそも羽田の弁天の社は、今でこそ普通の平地で、畑の中に詰らなく遺っているけれど、天保時代には、要島という島に成っていて、江戸名所図絵を見ても分る。此地眺望最も秀美、東は滄海漫々として、旭日の房総の山に掛るあり、南は玉川混々として清流の富峰の雪に映ずるあり、西は海老取川を隔て云々、大層賞めて書いてある。
この境内の玉川尻に向った方に、葭簀張りの茶店があって、肉桂の根や、煎豆や、駄菓子や、大師河原の梨の実など並べていた。