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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

線上閱讀江戸川 乱歩《悪魔の紋章(あくまのもんしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 頁

青空文庫

博士は川手氏を待たせて置いて、三等切符売場の窓口に行き、沼津までの切符を二枚買った。

「オヤ、こりゃ沼津行きじゃありませんか。山梨県じゃなかったのですか」

川手氏は切符を受け取って、けげん顔に訊ねる。

「シッ、シッ、何も訊かないという約束じゃないか。サア、丁度発車するところだ。急ごうぜ」

博士は先に立って、改札口へ走り出した。

発車間際の下関行き普通列車に間に合って、二人は後部三等車の片隅に、つつましく肩を並べて腰かけた。

ゴットンゴットン各駅に停車して、横浜へついたのは、もう正午に近い頃であった。

「この次の駅で、少し危い芸当をやりますからね。足もとに気をつけて下さいよ」

博士は川手氏の耳に口を寄せて囁いた。

やがて保土ヶ谷。だが停車しても博士は別に立上ろうとするでもない。

「ここですか」

川手氏が気遣わしげに訊ねると、博士は目顔で肯いて、平然としている。一体どんな芸当をしようというのだろう。

車掌の呼笛が鳴った。ガクンと動揺して汽車は動き始めた。

「サア、降りるんです」

矢庭に立上った博士が川手氏の手を取って、後部のブリッジへ走った。そして、もう速力を出し始めている車上から、先ずスーツ・ケースを投げ出して置いて、サッとプラット・フォームへ飛び降りた。