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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

線上閱讀江戸川 乱歩《悪魔の紋章(あくまのもんしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 頁

青空文庫

にっくい貴様達夫婦が、こうしてお蚕ぐるみでぬくぬくと暮らしているに引かえ、この俺は朝鮮で目論んだ山仕事も散々の失敗、女房と子供を抱えて、まるで乞食同然の身の上さ。しょうことなしに、この間恥を忍んで貴様の店へ無心に行ったが、貴様はけんもほろろの挨拶、イヤそればかりじゃねえ、大勢の店員の見ている前で、よくも俺の旧悪を喋り立て、赤恥をかかせやあがったな。

若し満代さんが、あの時俺になびいていさえすりゃ、今頃は俺が山本商会の主人となり、何十万の身代を自由にする身の上になっていたかと思うと、俺と貴様の運勢の、あんまりひどい違いに、俺アくやしくって、くやしくって、天道さまを恨まずにやいられなかった。

エエ、ままよ。どうせ天道さまに見離されたこの俺だ。まっとうにしていたんじゃ、一生乞食同然のみじめな暮しをせにゃならねえ。いっそ浮世を太く短くと思いついたのが、貴様達の運の尽きよ。

それから様子を探って見ると、丁度今日、一万円という現金が、この自宅の金庫の中へ納まるという目ぼしがついたので、それを待ち兼ねてやって来たのだ。サア、金庫の鍵を渡さねえか」

賊は時代めいたせりふを、長々と喋り終ると、又しても、血に濡れた短刀で、満代と呼ばれた美しい妻女の頬を、ペタペタと気味悪く叩くのであった。