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おうぎの
扇野
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《扇野(おうぎの)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 頁
明くる日、――日が昏れるのを待兼ねたように、栄三郎は独りでぬけだして、桑名屋へいった。小花ともう一人、べつの婆さん芸妓は来たが、おつるは座敷だそうで、なかなかあらわれず、ようやく九時ごろに来たが、ひどく酔っていた。おつるの来るまえに、小花たちがおつるのことを話していた。三味線が上手で、踊りもこの土地では指折りだということ、また、たいそうな売れっ妓で、「新水」というのがいちばん大きい料亭であるが、殆んどその家の専属のようになっている。ゆうべ桑名屋へ来たのは珍しいことだ、などというのであった。おつるは廊下を大股に(男の子のように)手を振ってあらわれ、今晩は、――としゃがれた大きな声で云いながら、座敷へ入って来た。
その夜どんなふうに騒いだか、栄三郎にははっきりした記憶がない。おつるが来るまえに相当飲んで酔っていたし、おつるが来てからもぐいぐい飲み、いつか酔いつぶれて、眼をさましたのはもう夜半すぎであった。芸妓たちはもちろんみな帰り、おさとがいて隣りの部屋へ夜具をのべたり、彼に着替えをさせたりした。
「おつる姐さんがお泊り下さいって云ってました」とおさとが云った、「明日の朝は早くうかがいますからって、どうしてもお帰ししてはいけないって云ってましたから」