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おうぎの
扇野
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《扇野(おうぎの)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 頁
一
一
「うんいいね、静かな趣きだ」
石川孝之介はそう云って、脇にいる角屋金右衛門に頷いた。
――なにを云やあがる。
栄三郎は心の中でせせら笑った。
孝之介は、藩の家老石川舎人の長男だという。年は栄三郎より五つ六つ若いだろう、二十六七歳と思えるが、家老職の子らしいおちつきと、すでに一種の威厳のようなものが備わってみえる。躯も顔もやや肥えてまるく、色が白く、だがその大きな(またたきをしない)眼には、意地の悪そうなするどい光りがあった。
「お上はたいそう冬の武蔵野をお好みあそばしますので」と角屋金右衛門が云った、「およそこういうものをと、私から古渓先生にお願い申したのでございます」
「閑寂な気分がよく出ている、悪くない」孝之介が云った、「この枯れた栗林がことにいい、いかにも武蔵野というふぜいだ、私も出府したとき江戸の近郊をだいぶ歩きまわったものだが、これは関口の大滝の上あたりを写したものではないか」
金右衛門が栄三郎を見た。
「失礼ですが、それは栗林ではなく、くぬぎ林です」と栄三郎が答えた、「それにこれは、写生ではなくて絵ですから、どこそこの景色だなどということはありません」