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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁

青空文庫

藤吉郎も、時折、遠くその光景を見ることができた。しかし、彼の席は、客殿の末も末――そして一段下がった廊下外であった。

けれど、おながれの杯は、廊下外の詰侍の列にまで、やがて順に廻って来た。藤吉郎の手に、それが渡って来たのは、何百人目か知れなかった。

「いや、こんな吉い日はない」

「何と泰平な」

「御当家にとっては、まず何十年ぶりで、こういう平和に恵まれたことか。先代信秀様以来、まずないことじゃろ」

「それは、三河殿にとっても、同様な儀でござろう。千秋万歳。――もう一献、お廻しねがいたいもので」

廊下外は気楽でもある。ひそかに主賓の下馬評さえ種々に囁かれていた。

或る者は、元康の人品を、寡言温容だが、武略にかけてはどうかといい、或る者は、元康その者より、きょう従れている随臣の中に、秀でた骨がらの者がある。家臣に良いのがいるのだろうといった。

是々非々、観る眼はいろいろであった。

藤吉郎は、それらの囁きを、種々に周囲に聞いていたが、誰の評にも、

(よく観た)

と、感心するような言葉は聞かれなかった。

彼は彼だけに観たところを独り胸にたたんでいた。

彼が感じたところは、元康が、飽くまで信長と対等にいることだった。