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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁
「いや」
「でも今、そういわれたろうが」
「藩士ではありませぬ。奥向きに仕えておる女子でござる」
「お名は」
「路傍ではちと」
「其許の姓名は」
「それも……」
「道ばたでは憚りあると申さるるか」
「左様です」
「では、お望みに任せて、われらの奉行屋敷まで案内いたそう」
他国の間諜と認めたのであろう。態よく拉して行こうとした。無益な抵抗をさせないように、一名はわざと、道の向うへ声をかけた。支配頭と見えて騎馬の侍が一名と、十人ばかりの歩卒が佇んでいた。
「願うてもないこと。……然らばご案内していただこう」
武芸者はすぐ歩き出した。
長良川の渡船口をはじめ、城下内の警固、旅行者の検索など、ここも他国と同じで相当に厳密である。
信長が居を移してから、何分にもまだ年月は浅いし、斎藤家時代とは、市政も諸般の法令も一新しているので、奉行の公務は非常に多い。しかも一部からは厳重すぎるといわれるほど、細心な警備を尽していても、まだしばしば、斎藤家の残党という者が、城下民の中に紛れていたり、他国の隠密の仕事の足痕を、後から発見したりすることが、のべつといっていいほどあった。
森三左衛門可成は、その奉行役として、適任ではあったが、武士は誰しも、こういう文官的な任務よりも、戦場に押しやられる方が好ましかった。