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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁
余りに、依怙とも評されましょう。――しかし、今日となれば、誰も羨み誹る者はございますまい。猿めも、あの折口を出した咎で、洲股へ遣らるるわと、小気味よく申すことでしょう。故に敵へも味方へも、今日、藤吉郎がおいいつけを受けることは最も時機を得たものと存ぜられます」
「…………」
眼を閉じて聞いていると、信長は、自分のために世事兵政にも長じている軍師が、洲股を例にひいて、講義でも聴かせているようにすら思われたが、眼をひらけば、そこには、人いちばい頭の低い、足軽五十人頭でしかない一個の平侍が、ぺたと、平伏しているに過ぎなかった。
「よし。――赴け――」
信長は、傍らの塗筥を小姓の手から授けた。特に、采配を賜わったのである。藤吉郎は初めて、信長から一個の将として許されたのであった。
「寧子ッ。帰ったぞ」
時ならぬ良人の帰宅に、
「おや。常とはお早いお退け時のようでございますが」
出迎えると、
「いやいや、またすぐお城へ引っ返さねばならぬ。寸時、別れに来たのだ」
藤吉郎は奥へ坐っていう。
侍の妻には、常にいつ来るかも知れない「別れ」の予測と心構えがある。寧子の眉は、微かに悲しんだ。