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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁

青空文庫

「連れ参りました」

中の木戸から取次がいう。

万一があっては――という用心からであろう、表方にいる彼が手飼の野武士五、六名が、物々しく一人の客を囲んで通して来た。

じろと、小六は見遣りながら、

「これへ」

と、大きく頤を引いた。

やがて小六の前に、一個の平凡なる男が立った。挨拶も平凡な世間なみに、

「どうもしばらくでした」

と、一礼していう。

小六は、その顔を、穴のあくほど見ていたが、

「おう、やはり猿だ。なるほど。面貌はそう変ってもいない」

と、つぶやいた。

思っていた程は変っていない面ざしにひきかえて、余りにも変った藤吉郎の姿には、彼の眼も驚かないでいられなかった。

十年前の矢矧川の一夜を、小六は今、はっきり思い出した。

裾の短い、白木綿の着もの一枚に、頸や手足も旅垢にまみれ、泊るに銭もなく、飢えて川辺の舟に寝ていたらしいが、手下の者が揺り起すと怖ろしく気のつよい大言を放ったので、

(こいつは?)

と、手下の向けた提げ龕燈で、まじまじと見つめたその時の、奇異な少年のすがたを――小六は今、ありありと眼に思い泛べていた。

「いや、その後はつい」

藤吉郎は、腰低く、以前の自分と――今の自分と、なんらの隔ても意識しない容子で、