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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁
猛虎といわれる治郎左衛門も、身を顧みれば、一兵も持ってはいないし、ここは敵の城内であった。鳥肌のようになった襟の毛すじが、そそけ立って見えた。
藤吉郎は、語をつづけて、
「――が、自分としてはです、その主命に奉じれば、あなたに誓った前約を破ることになる。武士道の信義を自らふみにじることになる。――これは出来ぬ。――と申して、武士の信義を欠くまいとすれば、主命に反くことと相成る。藤吉郎、進退ここにきわまったここちでござる。それゆえ、小牧山からもどる途中も、途々、怏々と心も楽しまず、さだめし御不審にも思われたでござろうが、どうか、御疑念をはらして下さい。今は、心もさわやかに、自身、解決を持っておりますから」
「どう? ……どう胸をすえたといわれるのか」
「藤吉郎の腹一つ切って、其許へも、また御主君へも、双方へお詫びする所存。それしかありません。……治郎左衛門どの、今夕は、おわかれの一盞を酌もう。その後で、藤吉郎は自決する。きっと貴公へ討手のかからぬよう引きうける。貴公は、夜陰にまぎれて、ここを逃げ落ちてください。――それがしの身にかまわず、どうぞ安心して!」