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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 頁

青空文庫

逃げるかと思いのほか、一歩もうごかないので、癪にさわったにちがいない。

「チビ。汝れや何だ」

虎之助は、ぷんぷんと襲う、酒のにおいに顔をしかめながら答えた。

「御城内の於虎だよ」

「なに、虎だと」

彼は鼻を鳴らして、あいての小さい体を見おろした。

身なりのわりに眼は大きい。その眼を、なお大きくみはったまま、虎之助は、禿久を睨め返していた。

「わ、は、は、は。こいつは奇遇だ」

突然、禿久は身を反らして、仰山に笑い出した。そして虎之助の顔を、壺を持つように両手で持った。

「おまえも於虎か、おれも大とらだ。兄弟分になろう」

「いやだ」

「そういうない」

「きたない」

押しつけて来る顎を、突き退けた。怒りっぽい禿久が妙に怒りもせず、こんどは虎之助の手くびを握って、

「一杯交わそう。兄弟分のさかずきだ」

もとの酒屋の軒へ引っ張り込もうとする。虎之助はうごくまいとする。彼の腕の根が抜けるか、禿久の腰がくだけるか、果てしなく引っ張り合っていた。

体重はないし、あいては有名な強力足軽、ずるずるッと酒屋の軒下まで持ってゆかれた。あたりに見ていた近所界隈の老若男女は、

「あれッ、あれッ、かわいそうによ」