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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁
ほんなら待ってとくれやす」
そういいおいて、彼女は静かに立ち上って廊下の外に消えるように帰ってしまった。私はまた変な不安の念いを抱きながら、あまり執拗に留めるのも大人げないことだと思って女のいうがままにさしておいた。開放した濡縁のそとの、高い土塀で取り囲んだ小庭には、こんもり茂った植込みのまわりに、しっとりとした夜霧が立ち白んだようになって、いくらか薄暖かい空気の中へ爽やかな夜気が絶えず山の方から流れ込んでくる。私は食べ物の香の残っている餉台のところから身体をずらして、そちらの小庭に近い端の方へ行ってまたごろりと横になり、わけもなく懐かしい植物性の香気の立ち薫っているような夜気の流通を呼吸しながら、女の約束していった二時間のちのたよりを、それがどんなものであるかという不安でたまらないうちにもいいがたい楽しみに充ちた期待をもって待つ心でいた。
あたりは静かなようでも、さすがに一歩出れば、すぐ繁華な夜の賑わいの街に近いところのこととて、折々人の通り過ぎるどよみが遠音にひびいてくる。しかし、そのためにひとしお静けさを増すかのように思われる。あんまり快い気持ちなので、私は肱を枕にしたまま、足の先を褞袍の裾にくるんで、うつらうつらとなっていた。