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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁
どうしようかと思ってちょっと考えたが、一旦押す手を止めておいて、その出窓が一尺ほどの幅になっているので、こんどは隣りの家の入口の方に廻って、その横手の方から、一と押しに力を入れて、ぐっと押すと、こちらの力が勝って、硝子戸は一尺ほどすっと開いた。そして内側をふっと見ると、向うの窓の下のところに、嬉しや、彼女が繊細い手でまだ硝子戸に指を押しあてたまま私の方を見て、黙ってにっこりとしている。その顔は病人らしく蒼白いが、思ったよりも肥えて頬などが円々としている。近いころ髪を洗ったと思われて、ぱさぱさした髪を束ねて櫛巻にしている。小綺麗なメリンスの掛蒲団をかけて置炬燵にあたりながら気慰みに絽刺しをしていたところと見えて、右手にそれを持っている。私は窓の横から窺きながら、
「お園さん」と低い調子で深い心の籠った声をかけた。
と、そこへ、その物音を聴きつけて、次の間から母親が襖をあけて出て来て、
「なんで、そない端のところに出ているのや、早うこっちお入りんか。そなところにいるからや」と、ひそひそ小言をいいながら、力なげに起ち上った彼女の背後に手を添えて奥の間の方へ推し隠してしまった。