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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁
と、女あるじはその時分のことを思いうかべて心から亡くなった人の身を悲しむかのように、私が傍にいることなどてんで忘れてしまった風で、しんみりとなり、
「三野村さん死なはったのはついこの間のように思うてたら、もう一昨年になる。そうやなあ、一昨年の夏のもうしまいごろやった。可哀そうやったなあ、あんなにお園さんに惚れていても死んでしもうたらしようがない」
彼女はとうとう独り言をいい出した。
私は厭あな気持で黙ってそれを聴いていた。私にあてつけて故意にそんなことをいっているのかと思って気をつけていたが、彼女は真実三野村という男の死を哀れんでいるらしい。それならば情涙の涸渇したと思っていたこの薄雲太夫の後身にもやっぱり人並の思いやりはあるのだ。ただ私に対して同情を懐かないばかりなのだ。それにしても私のこれほど血の涙の出るほどの胸の中がどうして彼女の胸に徹せぬのであろう。私は自分で自分のことを思ってみても昔の物語や浄瑠璃などにある人間ならばともかくも今の世におよそ私くらい真情を傾け尽して女を思いつめた男があるであろうか……なるほどその三野村という男のことは、もう三、四年も前にちょっと耳にせぬでもなかったが、たといいかなる深い男があっても、自分のこの真情に勝る真情を女に捧げている者は一人もありはせぬ。