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あゆむ
日本プロレタリア文学集・23 婦人作家集(三)
戸田 豊子
線上閱讀戸田 豊子《日本プロレタリア文学集・23 婦人作家集(三)(あゆむ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 21,183 字 · 44 頁
兄は聞えない振りをした。
「罰金で済むんでしょうね」
「さあ、まだ引掛かってるんだ――」
電車の中ではそれ以上のことは聞けなかった。兄は小指の先で耳が赤くなる程引かきまわした。カーブの所でぐっと声を高めた。――
「おっ母さんから便りがある?」
「あ、時々」
「近頃、金を送ってやれないでるんだ、そんな事情で。お前の方で何とかしてやっててくれないかな、その代りお前が首になった時には俺がやるよ」
とも子は笑い乍ら頷いた。それからは、時々肩をぶっつけ合って、黙って揺られた。二人の前へトランクを提げた男が立塞がった。
「今日は急ぐの? 久し振りにご飯でも食べようか――、そうか、じゃまたこの次にしよう、渡君に会ったら宜しくね」
そう言って、兄は交叉点へ降りて行った。
――母は癖で、布団をたたんだような恰好に平たく坐り、しょんぼり心の弱った眼をっているかも知れない、疲れているんだ。
――彼女の蒼ざめた顔が迫ってくる、皺ばんだ枯れた腕をさし伸ばしている、それから、おずおず多勢の押しひしがれてる母たちの中へ呑みこまれてゆく、芥子粒のように小さくなる――。
「だからこそ――」
「兄の闘志を、こんな牧歌的な憂いで曇らせては不可ない――」