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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《日本婦道記(にほんふどうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,170 字 · 22 頁

青空文庫

おかやは靱負の出立する前の日に暇を取った。迎えに来た兄と一緒にいよいよ別れるという時、彼女はなんども牧二郎を抱き緊め、声を忍ばせて泣いた。けれどもそれ以上みれんなようすは見せず、思いきりよく多助に伴れられて去っていった。十五歳で来て六年、殊に妻が病みついてからのおかやの尽して呉れた辛労を思うと、満足に酬いてやることもできないこのような別れが、靱負にとってはこの上もなく心痛むものだった。彼は牧二郎を抱いて門まで見送り、「早く良縁を得て仕合せになるように」と繰返しそのうしろ姿に向かって祈った。……然しそれから一刻も経ったであろうか、ちょうど牧二郎に昼の薄粥を与えているところへ、息を切らして多助が戻って来た。

「おかやがまいりましたろうか」「此処へは来ないが」靱負はおかやという言葉に恟々として出ていった、「……どうかしたのか」「はい、途中で見えなくなりましたので」「先に家へ帰ったのではないか」「いいえ荷物が置いた儘ですからそんなことはないと思います」不吉な予感が靱負の心を刺した。彼の頭には村はずれを流れている大川の早瀬が想い浮び、杉の杜の裏にある沼の淀んだ蒼黒い水が見えるように思った。