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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
線上閱讀長谷川 時雨《旧聞日本橋(きゅうぶんにほんばし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 158,045 字 · 322 頁
何処でもする怪談ばなし、新聞がいまほど行き渡らないから旧幕時代の、垢のつききった「お岩様」で声をひそめている。夜六時すぎてから「お岩様」のはなしをすると怪異があるというのだ。そら引窓があいた! なんて、年甲斐もなく妙な声を出すのもある。
新内が来る、義太夫がくる。琴と三味線を合せてくるのがある。みんな下手ではない、聴き巧者が揃っているからだ。向う新道の縁台でやらせている遠く流れてくる音を、みな神妙に聴入っている。生活に幾分余裕があったのでもあろうが、お三日に――朔日、十五日、廿八日――門に立つ物乞も、大概顔がきまっていた。ことに門附けの芸人はもらいをきめているようだった。女太夫の名残りもあったのだろう。家によっては煙草の火をもらって話してゆくのもあった。琴三味線の合奏は老女が多かった。みなといってもよいほど旧幕臣のゆかりだった。縁日のはずれの方に、小さく敷ものをして、紙がとばないように小石をおいて、お家流の美事な筆跡で、すらすら和歌や詩を書いては、一枚書くと丁寧にお辞儀をする品のよい老女がいた。落泊ても手や顔に垢をつけていなかった。その前にしゃがんで、表札を書いてもらっているものや、手紙の上封を頼んでいるものもあった。