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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
線上閱讀長谷川 時雨《旧聞日本橋(きゅうぶんにほんばし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 158,045 字 · 322 頁
あたしも仕方なしに佇んでいた。すると、窓に並んだ勝手口の方で、カタンと金属の音がした。あたしも見た。おまっちゃんも見た。
露地の出口を乞食のような老人が出てゆく後姿が見える。その老人のさげてゆくものがカタンカタンと鳴る。
「鍋が――鍋が、鍋が。」
おまっちゃんは出来るだけの声をだした。
秋山先生は御飯後の苦いお茶を喫んで、蘭の葉色を眺め入っていた。
老人は溝板をドタドタと駈出した。鍋がガチャンとぶつかった音がした。台所からも御新造さんが怒鳴りだした。生徒たちもワーッと声をあげた。
秋山先生は袴の股立ちをとって飛出した。生徒もみんな加勢に飛出した。表通りからも、裏通りからも、番頭さんや小僧や、権助さんまでが火事と間違えて駈けつけてきた。
泥棒はあわてて、向う裏へ逃げこんだが、それでも鍋はさげているので、逃げだした道筋には味噌汁がこぼれていた。老人の泥棒はまごついて外後架へ逃込んで、中から戸を押えていた。先生は持っている鞭で、戸をはたいて、
「出ぬか、出ぬか。」
と怒鳴った。見物の弥次馬は笑ったが、生徒たちは真面目で先生のいう通りに怒鳴った。そうすると泥棒は体をかくしたまま、戸の上から鍋だけさしだした。