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ときのかんねんとエントロピーならびにプロバビリティ

時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ

寺田 寅彦

線上閱讀寺田 寅彦《時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ(ときのかんねんとエントロピーならびにプロバビリティ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,111 字 · 9 頁

青空文庫

「時」の不可逆という事にもまた分子的混乱系の存在が随伴している。前にあげたような、仙人と振り子とだけの簡単な世界では、可逆な「時」が可能であるが、吾人の宇宙はある意味で分子的混乱系である。ある学者の考えているように森羅万象をことごとく有限な方程式に盛って、あらゆる抽象前提なしに現象を確実に予言することは不可能であって、そのゆえにこそ公算論の成立する余地が存している。そのために吾人の「時」には不可逆の観念が伴なって来る。そのために未来と過去の差別が生じるのではあるまいか。未来に関して吾人の言いうる事は系の公算の増すという事だけではあるまいか。未来は「であろう」ですなわちプロバビリティのみである。この宇宙系のプロバビリティの流れはすなわちエントロピーの流れで、すなわち吾人の直感する不可逆な時の流れではあるまいか。

エントロピーに随伴して来る観念は「温度」である。たとえば簡単な完全ガス体の系では容積を保定しておけば、エネルギーの増す時にそのエントロピーの増加は「温度」に反比する。前のような通俗的のたとえを引けば、人間のエントロピーの増大と「精神的の時」