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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(二)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(二)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 215,865 字 · 432 頁

青空文庫

草履の代を払って、半七は先に立って出てゆくと、やがて彼の辰蔵の店のまえに来た。小料理屋といっても、やはり荒物屋兼帯のような店で、片隅には草鞋や渋団扇などをならべて、一方の狭い土間には二、三脚の床几が据えてあった。その土間をゆきぬけた突き当りに、四畳半ぐらいの小座敷があるらしく、すすけた障子が半分明けてあるのが表からみえた。店口の柳の木には一匹の荷馬がつないであった。と思うと、店のなかでは俄かに呶鳴る声がきこえた。

「この野郎、横着な野郎だ。三日の約束がもう五日になるでねえか」

半七は表から覗いてみると、今しきりに呶鳴っているのは、三十五六の赭ら顔の大男で、その風俗はここらの馬子と一と目で知られた。その相手になって何か云い争っているのは、やはりおなじ年頃の色の黒い、中背の男で、おそらく亭主の辰蔵であろうと半七は想像した。

「嘘つき野郎め、ふてえ奴だ、われには何度だまされたか知れねえぞ。もうその手を食うものか、耳をそろえて直ぐに渡せ」と、馬子は嵩にかかって哮り立った。

「嘘をつく訳じゃねえ。今ここにねえから我慢してくれと云うのだ。近所隣りの手前もあらあ。無暗に大きな声をするな」