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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(二)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(二)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 215,865 字 · 432 頁

青空文庫

死に神か通り魔か、狐か狸か、なにかの妖怪が自分に付きまつわって来るのではないかと思うと、文字春は俄かにぞっとした。彼女はもう強がってはいられなくなって、数珠をかけた手をそっとあわせて、口のうちでお題目を一心に念じながら歩いて来たのであった。それでも無事に大木戸を越して、もう江戸へはいったと思うと、彼女は又すこし気が強くなった。灯ともし頃とはいいながら、賑やかな真夏のゆうがたで、両側には町屋もある。かれはここまで来た時に、はじめて思い切ってその娘に声をかけたのである。声をかけられて、娘は低い声で遠慮勝ちに答えた。

「はい。赤坂の方へ……」

「赤坂はどこです」

「裏伝馬町というところへ……」

文字春はまたぎょっとした。本来ならば丁度いい道連れともいうべきであるが、この場合に彼女はとてもそんなことを考えてはいられなかった。彼女はどうして此の娘が自分のゆく先を知っているのであろうと怪しみ恐れた。彼女は左右を見かえりながら又訊いた。

「おまえさんは裏伝馬町のなんという家を訪ねて行くの」

「津の国屋という酒屋へ……」

「そうして、おまえさんは何処から来たの」

「八王子の方から」