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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(二)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(二)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 215,865 字 · 432 頁

青空文庫

してみると、たった今ここの店を覗いていた娘に相違ない。そんないい加減なことを云って、駕籠賃を踏み倒して逃げたんだろうと云っていると、奥からお父っさんが出て来て、たとい嘘にもしろ、津の国屋の暖簾を指されたのがこっち不祥だ。駕籠屋さんに損をさせては気の毒だと云って、むこうの云う通りに駕籠賃を払ってやったら、駕籠屋も喜んで帰りました。お父っさんはそれぎりで奥へはいってしまって、別になんにも云いませんでしたけれど、あとで店の者たちは、ほんとうに今どきの娘は油断がならない。あんな生若い癖に駕籠賃を踏み倒したりなんかして、あれがだんだん増長すると騙りや美人局でもやり兼ねないと……」

「そりゃ全くですわね」

なにげなく相槌を打っていたが、文字春はもう正面からお雪の顔を見ていられなくなった。騙りや美人局どころの話ではない。かの娘の正体がもっともっと恐ろしいものであることを、お雪は勿論、店の者たちも知らないのである。そのなかで主人一人がなんにも云わずに素直に駕籠賃を払ってやったのは、さすがに胸の奥底に思いあたることがあるからであろう。お安の魂は、御堀端で自分に別れてから、さらに駕籠屋に送られて津の国屋まで乗り込んで来たのである。