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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(二)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(二)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 215,865 字 · 432 頁

青空文庫

それからそれへと死霊の祟りがひろがってくるらしいので、文字春はいよいよ恐ろしくなった。こんなところにとても長居はできないので、かれは早々に挨拶をして逃げ出して来た。明るい往来に出て、初めてほっとしながら見かえると、津の国屋の大屋根に大きな鴉が一匹じっとして止まっていた。それが又なんだか仔細ありそうにも思われたので、文字春はいよいよ急いで帰って来た。そのうしろ姿を見送って、鴉は一と声高く鳴いた。

津の国屋の女房はその後十日ほども寝ていたが、まだ自由に歩くことが出来なかった。そのうちに文字春は又こんな忌な話を聞かされた。津の国屋の店の若い者が、近所の武家屋敷へ御用聞きにゆくと、その屋根瓦の一枚が突然その上に落ちて来て、彼は右の眉のあたりを強く打たれて、片目がまったく腫れふさがってしまった。その若い者は長太郎といって、このあいだの晩、自分の店先で撫子の浴衣を着た娘に声をかけた男であることを、文字春はお雪の話で知った。おそろしい祟りはそれからそれへと手をひろげて、津の国屋の一家眷属にわざわいするのではあるまいか。津の国屋ばかりでなく、しまいには自分の身のうえにまで振りかかって来るのではあるまいかと恐れられて、文字春は実に生きている空もなかった。