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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(六)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(六)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 196,831 字 · 396 頁

青空文庫

張り詰めている気もゆるんで、彼は暁け方から思わずうとうとと眠った。再び眼をあくと、いつの間にか雨戸は開け放されて、縁さきには朝の光りが流れ込んでいた。手足のまだ痛むのを堪えながら、留吉は寝床の上に起き直ると、枕もとの煙草盆には新らしい火が入れてあった。自分の寝ているうちに、小坊主が覗きに来たものと見える。彼は自分の油断を後悔しながら、不自由の手で煙草を一服すった。

「寝首を掻かれねえのが仕合わせだった」と、彼は独りで苦笑いした。

寺では寝巻を貸してやろうと云ったのを断わって、彼はゆうべからごろ寝をしていたので、そのまま這い起きて羽織をかさねた。例の物音が気になるので、彼はそっと縁側へ出てみると、庭さきはもう綺麗に掃いてあって、そこで掴み合いのあったらしい形跡は残されていなかった。それでも彼は庭下駄を突っかけて、覚束ない足どりで庭に降りた。

ゆうべの風はいつか吹きやんで、今朝はうららかに晴れていた。庭のまん中にある桜の大樹も、もうひと雨でほころびそうに紅らんで、春をよろこぶ小鳥の声が賑やかに聞こえた。よく見ると、その木の下には古い苔を踏み荒らした足跡が残っている。