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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(六)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(六)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 196,831 字 · 396 頁

青空文庫

吉五郎は舌打ちした。

「仕様がねえ。風が強いので吹き飛ばされたかな。まさかに消えてなくなった訳でもあるめえ」

と云う時に、留吉は声をあげた。

「や、飛んでいる。あすこに……」

白い蝶は、三、四間距れた所に飛んでいるのである。それを見て、吉五郎はまた舌打ちした。

「畜生。ひとを玩具にしやあがる」

ふたりは直ぐに駈け寄ると、蝶の影は消えるように見えなくなった。

留吉は提灯をふりまわして、しきりにそこらを照らして見たが、それらしい物の影もないので、彼は焦れて無闇に駈け廻った。吉五郎も梟のように眼を見張って、暗いなかを覗いて歩いたが、それもやはり無効であった。

往来の絶えた寺門前の闇のなかに、大の男ふたりが一生懸命駈け廻って蝶を追っているのは、どうしても狐に化かされたような図である。しかも今の彼等はそんなことを考えている暇はなかった。

「ほんとうに人を馬鹿にしていやあがる。忌々しい奴だな」と、留吉は息をつきながら云った。

吉五郎も立ち停まって溜め息をついた。

いかに焦れても、燥っても、怪しい蝶はもうその影を見せないのである。ふたりはあきらめて顔を見合わせた。

「親分。