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こがらしのさかぐらから
木枯の酒倉から
線上閱讀坂口 安吾《木枯の酒倉から(こがらしのさかぐらから)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,163 字 · 22 頁
俺の禁酒は、結局悲劇にもならずに笑うべき幕をおろした。悶々の情に胸つぶし狂おしく掻い口説くのは一人恋人だけであるということを、呪われたる君よ、知らなければならぬのじゃ。冬はあまりにも冷たすぎるものじゃよ。
だから(聖なる決心よ!)俺はうなだれて武蔵野の夕焼を――ういうい、酒倉へ、酒倉へ行ったんだ! 断乎として禁酒を声明したあの一夜から、数えてみて丁度三日目の夕暮れだった。俺の目は落ち窪み、頬はげっそりと痩せ衰えて、喉はブルブルと震えていたが。ややともすれば俺は木枯に吹き倒されて、その場でそのまま髑髏にもなりそうに思いながら、ようやく酒倉へ辿りついてその白壁をポクポクと叩いたんだ。
俺の悄然たるその時の姿は、「帰れる子」の抱腹すべき戯画であり、換言すれば下手糞な、鼻もちならぬ交響楽を彷彿させるそれら「さ迷える魂」の一つであったと、行者は後日批評している。とにかく俺はようやくにして二十石の酒樽に取り縋ると物も言い得ず灰色の液体を幾度も幾度も口へ運んだ。ああ幾度も幾度も……そんな風にして俺の神経の細い線が、一本ずつ浮き出てくるのを感ずる程呑みほしたのだが――酒は本来俺にとって何等味覚上の快感をもたらさないのだ。