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ほんじょまつざかちょう

本所松坂町

尾崎 士郎

線上閱讀尾崎 士郎《本所松坂町(ほんじょまつざかちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,622 字 · 55 頁

青空文庫

「格別の御慈悲におすがり申したき出来事が発生いたし、某の一存にて計り定めがたく、ぜひとも殿様の御判断を仰ぎたいと存じまして」

「いや、何でもいうがよい、――その方一存で計えぬというのはよくよくのことであろう。人命にでもかかわることか?」

「ありがたく存じあげます。事の仔細は名主利右衛門より言上いたすことと存じまするが、おそれながら今日持参の嘆願書、ひととおりお眼どおし下さりまするよう、つつしんでお願いいたします」

半七郎が、うやうやしく差しだした嘆願書を上野介は無造作にうけとると、すぐ短檠の灯かげの下で一気に読み下した。事件は上野介の到着する二日前に起ったのである。

筍の名産地と呼ばれた吉良領の中でも駮馬一帯は特に本場とされて、うねりつづく丘陵の傾斜面は、道という道が竹林にかこまれている。

平坦な街道は山裾を縫う坂の下にあった。しかし、村とはいうものの、竹藪の中にぽつんぽつんと小さな家が茅葺きの屋根をうかべているだけで、戸数は合せて四五十戸もあろうか、――どの家にも低い土塀にかこまれた細葉の垣根があった。

その昔、南朝の遺臣、足助次郎重範の一族が、段々山麓から山づたいに逃れ、此処に落ちのびて臥薪嘗胆、樵夫や百姓に身をやつして生活の基礎を築いたのが起源とされている。