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ますおとし

枡落し

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《枡落し(ますおとし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,765 字 · 67 頁

青空文庫

おうめは口をつぐんで、仕立物の針をすすめた。胸がどきどきし、なにか悪い事が起こったにちがいない、いったいどうしたことだろうと、昂まる不安を抑えることができなかった。珍らしくおみきは仕事もせず、勝手へ立ったり、茶を啜ったりしていたが、やがて帯をしめ直しながら、ちょっと用達にいってくるからと、手ぶらのまま、なにか思いあぐねたように出ていった。

「どうしたらいいだろう」あるきながらおみきは呟いた、「――本当に無実なら知らん顔をしてはいられない、どんなに悪くぐれたって良人だもの、知らないうちならともかく、証人がいると聞いた以上、そのままにしてはおけない、あたしにも、いけないところがあったのかも、しれないのだから」

けれども、おうめは芳っさんと、まもなく夫婦になるのだし、あの人の性分が変るとは思えない。とすると、――とすると。おみきはうなだれた。頭のどこかで祭囃しが聞えている、鉦や笛や太鼓の、賑やかな、うきうきするような囃しの音だ。そしてその音に混じって、「二人でいっしょに死にましょうよ」というおうめの、思い詰めたような声が聞えるのである。――生き証人がいて、本当にしんじつの事を訴えるというなら、それを拒むのは人情に外れる。