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りゅうえいひろくかつえぐら

柳営秘録かつえ蔵

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《柳営秘録かつえ蔵(りゅうえいひろくかつえぐら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,933 字 · 27 頁

青空文庫

「どうぞお見遁し下さいまし」

こう云ったのは男であった。見れば女は手を合わせていた。

じっと見下ろした侍は、

「これ、其方達は駈落だな」

こう云いながらジリリと寄った。陰森たる声であった。一味の殺気が籠もっていた。

「は、はい、深い事情があって」

男の声は顫えていた。

「うむ、そうか、駈落か。……楽しいだろうな。嬉しいだろう」

それは狂気染みた声であった。

「…………」

二人ながら返辞が出来なかった。

「そうか、駈落か」とまた云った。

「うらやましいな。……駈落か、……よし、行くがいい、早く行け……」

「はい、はい、有難う存じます」

男女は泥濘へ額をつけた。刀の鞘走る音がした。蒼白い光が一閃した。

「むっ」という男の息詰った悲鳴、続いて重い鈍い物が、泥濘へ落ちる音がした。男の首が落ちたのであった。

「ひ――ッ」と女の悲声がした。もうその時は斬られていた。男女の死骸は打ち重なり、その手は宙で泳いでいた。と、女の左手と男の右手とが搦み合った。月が上から照らしていた。血が泥濘へ銀色に流れ、それがピカピカ目に光った。

茫然と侍は佇んだ。二つの死骸を見下ろした。女の衣装で刀を拭い、ゆるくサラサラと鞘へ納めた。