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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《柳橋物語(やなぎばしものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 頁

青空文庫

杉田屋の幸太だった。彼は頭巾付きの刺子を着ていたが、その頭巾をはねながら上り框へ片足をかけた。

「もう立退かなくちゃあいけないよ爺さん、立花様へ飛んだ火が御蔵前のほうへかぶさって来た、こいつはきっと大きくなる、いまのうちに川を越すほうがいい、おれが背負っていくぜ」

「よく来てお呉んなすった、済まない」源六はじっと幸太の眼を見いった、「……せっかくだがおれのことはいいから、どうかこのおせんを頼みますよ、おれはこんなからだだし、もう年が年だから」

「ばかなことを云っちゃあいけない」幸太は草鞋のまま上へあがった、「……としよりを置いて若い者が逃げられるものか、さあこの肩へつかまるんだ、おせんちゃん、持ってゆく物は出来ているのかい」

「ええもう包んであるわ」

「じゃちょっと手を貸して爺さんを負わして呉んな、なにか細帯でもあったら結びつけていこう。色消しだがそのほうが楽だ」

構わないで呉れと泣くように云う源六を、幸太はむりに肩へひき寄せ、おせんの出して来たさんじゃく帯で、しっかりと背へ括りつけた。おせんは歯をくいしばった。幸太とは単純でないゆくたてがある。どんなに苦しくとも彼にはものを頼みたくない、然しこのばあい他にどうしようがあろう、彼がとびこんで来たとき、おせんは嬉しさに思わず声をあげそうになった。