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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《桜の森の満開の下(つちのなかからのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 頁

青空文庫

女帝の女体は淫蕩だった。そして始めて女体を知った道鏡の肉慾も淫縦だった。二人は遊びに飽きなかった。けれども凜冽な魂の気魄と気品の高雅が、いつも道鏡をびっくりさせた。それは夜の閨房の女帝と、昼の女帝の、まったく二つのつながりのない別な姿が、彼の目を打つ幻覚だった。夜の女帝は肉体だったが、昼の女帝は香気を放つ魂だった。

彼は夜の淫蕩を、昼の心で悔いることができなかった。なぜなら女帝の凜冽な魂の気魄が、夜の心を目の前ではっきりと断ち切ってしまうから。彼の魂は高められ、彼の畏敬はかきたてられた。それは女ではなかった。偉大にして高雅にして可憐にして絶対なる一つの気品であり、そして、一つの存在だった。

そして夜の肉体は、又、あまりにも淫縦だった。あらゆる慎しみ、あらゆる品格、あらゆる悔いがなかった。すべては、ただ、あるがままに投げだされ、惜しみなく発散し、浪費し、行われ、つくされていた。それ自体として悔い得る何物もあり得なかった。惜しまれ、不足し、自由ならざる何物もなかった。涙もあった。溜息もあった。笑いもあった。歓声もあった。力もあった。放心もあった。悲哀もあった。